プロジェクト進展報告 3/20

千葉県旭市では海岸林の減災効果を確認。盛り土に震災がれきの土砂を活用すると共に、クロマツの単層林から常緑広葉樹との混交林へと仕様を変更して整備を進める方針を決定しました。
記事を掲載します。

 

続大震災 安心の行方 ~8.「森の防波堤」保安林が減災に効果~(千葉県)

◇旭市(千葉県)の復興計画に

 昨年3月11日の東日本大震災直後、被害状況を上空から偵察するため、海上自衛隊館山基地(館山市)を発進した第21航空群のヘリコプターが、津波のスピードと破壊力を示す防災上、貴重な瞬間をカメラでとらえた。
北上したヘリは午後4時すぎ、旭市上空にさしかかった。防波堤を越えた津波は「かんぽの宿」や集落を覆い、道路に沿って内陸へ向かう。浸入し3分後、今度は一気に海に引いていく--。

 「かんぽ」前から東約1キロの浜は、堤防以外さえぎるものはないが、西寄りには幅20~40メートルの保安林がある。保安林にさえぎられた波は、林を回り込み、近くの市営パークゴルフ場や健康福祉センター方向に浸水した。その際「かんぽ」が1階のガラス窓やロビーが津波の衝撃で大規模に破壊されたのに対し、福祉センターには損傷はなく、明暗が分かれていた。

  「保安林の後背地では被害が少ないな、と実感があった」と明智忠直市長は振り返る。 市の調査によると、同市の海岸線は東西11キロ。地震発生から2時間半に数度、最大高6~7メートルの大津波が押し寄せた。津波による全壊家屋233戸は、保安林が少ない東側の旧飯岡町沿岸に185戸(79%)と集中。江戸時代以降の海岸浸食で海が目前となった住宅密集地が波にのまれ、県内最大の死者・行方不明者13人が出た。

 一方、保安林が比較的多い西側の旧旭市沿岸は48戸(21%)。保安林のない「かんぽ」周辺の中谷里区は18戸と目立った。

 今後、街や命を守るにはどうするか。現在の4・5メートルの防波堤より大きく堅固なコンクリート製の堤をめぐらすのか。予算や工期、景観上の配慮などを検討した結果、市がたどりついた対策が「森の防波堤」。「現実的に安心・安全を提供できるのはこの方法しかない。がれきの土砂も使おう」(市長)と、昨夏、県に「人工盛り土による海岸減災林」案を要望。市復興計画にも盛り込んだ。

 森林の減災効果はどの程度あるのだろうか。学術研究によれば、高さ3メートルの津波が流入した場合、林帯幅が50メートルあれば、津波のスピードは50%に、波による圧力は40%以下に低減するという。震災後、林野庁の検討委員会では、高さ6・5メートルの津波が林帯幅200メートルの森にぶつかった場合、エネルギーを30%ほど減少させるという報告もあった。

 「東北地方を襲った津波高20メートル以上では、根こそぎ倒れてしまったが、九十九里浜では、幅30メートルほどの林で力を和らげる効果があった」。千葉大園芸学部(松戸市)の小林達明教授(緑地環境学)はそう断言する。

 小林教授は、さらに工夫次第で効果は大きくなると指摘する。例えば、樹種。海岸林といえば、潮風に強い「白砂青松」のクロマツが代名詞だが、近年、マツクイムシ被害が深刻だ。小林教授によると、マツクイムシに強い品種や、常緑の広葉樹との混合林への変更も効果的。マサキ、トベラといった中低木で林帯を厚くし、マツが育たない湿地帯には、高木のヌマスギや黄色い花のハマボウなどの植樹が推奨されるという。

 また、こうした樹木が大きく育つポイントは、地下水まで深く根が張るかどうかで、この点、盛り土が有効という。

 その上で、小林教授は「何より、海岸保安林に対する意識を変えなければ。従来の暗い、ごみで汚いといったイメージから、命を守る“緑の城壁”なんだ、と。市民みんなで育て、散歩道としても楽しめるように。3・11を、その転換点にしてほしい」と提唱する。

 震災1年。小林教授も委員を務める県農林水産部と市町村による海岸県有林整備の検討委員会は、「海側」「中間」「陸側」と3層構造でクロマツと広葉樹を配置し、津波被害を受けた31ヘクタールの保安林などを整備する方針を固めた。

 明智市長は言う。「尊い犠牲を生かし、後世の子孫が『あの海岸林は、平成津波の教訓から造られたんだよ』と誇れるものにしなければ」【武田良敬】

(毎日新聞 2012.3.20 地方版)