目指すモデル林 ~新舞子浜海岸林~

福島民報提供 新舞子浜海岸林

【新舞子浜海岸林とは】

東日本大震災において被災した海岸林の中に「森の防潮堤計画」が目指す森のモデルがあります。
福島県いわき市新舞子浜にある海岸林です。

いわき市の太平洋岸に南北7km最大幅290mで伸びる防潮保安林でその広さは89haに及びます。
江戸時代磐城平藩の殿様、内藤氏が植林したのが始まりと言われています。
そのため殿様の法名から「動山林」とも呼ばれています。

この海岸林は、海岸べりの前縁部は従来通りのクロマツによる単一林ですが、県道382号線を越えて内陸に入るにつれて広葉樹が混じります。

クロマツの単一林
広葉樹の混じる内陸側

この、クロマツと広葉樹が混交する森は、タブノキ、スダジイ、アカガシ、シロダモ、ケヤキ、エノキ、ヤマザクラといった木々がクロマツとともに混交し、その樹冠下にシロダモ、モチノキ、ネズミモチ、マサキ、トベラ、シャリンバイ、ツルグミ、アオキ、ヤツデ、イボタノキといった樹木が低木層をなし、多層構造の森となっています。

多層構造の森は、海からの潮風、飛砂、高潮を緩和する機能を有しています。
多様な樹種が混ざり合うことで、一種類では、病気の蔓延や環境の変化、未曾有の大災害に負けてしまうこともありますが、多種類で支えあうことで森の機能を維持できます。
樹木には比較的短命なものもありますが、これらの広葉樹はいずれも寿命が長く、最も安定して森を形成します。

人の管理を一切やめた時に成立する最も安定した植物群落は潜在自然植生と呼ばれますが、その構成種による多層構造の森こそが、私たちの目指す「森の防潮堤計画」のモデルです。

 

【新舞子浜海岸林の減災効果】

海岸のクロマツ林が東日本大震災の津波で大きな被害を受けるなか、この海岸林は津波をどう乗り越えてきたのでしょうか。
5月20日の地元紙「いわき民報」の夕刊で取り上げられました。
2011.5.20 いわき民報 記事

おなじく10月24日の「福島民報」においても取り上げてられています。
2011.10.24 福島民報 1面
2011.10.24 福島民報 3面

林野庁の東日本大震災に係る海岸防災林の再生に関する検討会の「今後に於ける海岸防止林の再生について」の中でも

海岸林の津波に対する効果に関する記事の中で、この海岸林の減災効果に触れています。
林野庁 今後における海岸防災林の再生について 平成24年2月1日 P9

新舞浜海岸林は7mにおよぶ津波を受け、完全に押しとどめることは出来なかったにせよ、多くの人命と財産を救う奇跡を起こしたのです。

 

【新舞子浜海岸林の被災状況】

多くの海岸林もそれぞれに減災効果は認められています。
しかし、その代償に大きな被害を受けました。
壊滅的に失われた海岸林もあります。
新舞子浜海岸林はどうだったのでしょうか。
その状況を私たちは調査しました。

津波の爪痕はしっかりと残っていました。

前縁のマツ林には倒伏、折損をおこしたクロマツが数多く見られます。

内陸側でもマツの疎林に囲まれた場所では建物は基礎を残して失われていました。

ところが、広葉樹が混交する樹林帯では、ほとんど被害がみられなくなっていきます。

高木、中木、低木のそれぞれが津波のエネルギーをその枝葉で減衰させ、深く張った根が互いに絡みあうことで、地盤を保持し、森全体として耐えたのでしょう。

さまざまな要因が重なり、新舞子浜の奇跡は起きたのかも知れませんが、その要因のひとつに広葉樹を含む多種多様な樹種構成があったという点は、確かに挙げられるでしょう。

その多様な樹種も、どんな種類でも良いのではなく、その土地に馴染みしっかりと根を下ろす、土地本来の樹種で構成されることが重要です。

森の「減災」効果を如実に証明した「新舞子浜海岸林」の事例をもとに、わたしたちは「森の防潮堤計画」を推進していきます。

 

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