毎日新聞で特集記事『「森の防波堤」再評価』 5/5

5月5日の毎日新聞にて「森の防潮堤」計画の特集が掲載されました。
記事を掲載します。

特集:「森の防波堤」再評価
津波対策・防災意識後世へ
東日本大震災の教訓生かし、被災地自治体など計画

 がれきや破材を活用した盛り土の上に森を作り、津波を減衰させる「森の防波堤」構想が動き出した。国は海岸防災林づくりへの導入を決定し、東日本大震災の被災地では、計画づくりに着手した自治体もある。巨大地震による津波が想定される中部地方では、部品工場が実験植樹に踏み切るなど津波対策で「森の力」を再評価する動きが広がっている。

 森の防波堤構想は震災直後に、宮脇昭・横浜国立大名誉教授が提案した。宮脇さんによると、埋めたがれきの隙間(すきま)に樹木の根が絡み合い、酸素も供給されることから、丈夫な森ができる。樹木の波砕効果で津波の威力を減衰させ、引き波で人や家屋が海に流されるのを防ぐ。

 林野庁の検討会では高さ3メートルの津波を想定した場合、林帯幅50メートルで津波の水流圧力はほぼ半減し、100メートルでは3分の1に低減されるとの予測データが示された。

 今回の津波被災地では、漁船や車、コンクリート片などの漂流物が林の中にとどまり、背後の住宅地を直撃するのを防いだ例が数多く報告された。いずれも平地の海岸林での事例で、「盛り土した森の場合は、さらに津波を弱める効果は高まる」(同庁治山課)という。

 野田佳彦首相は4月23日、がれき処理促進と津波対策の両面で防災林を整備する方針を表明した。

 震災で市面積のほぼ半分が津波で冠水した宮城県岩沼市は、昨年9月にまとめた復興計画に「千年希望の丘」構想を盛り込んだ。がれきを使って盛り土した、高さ10〜20メートルの複数の丘を沿岸部に築き、丘の上に高木も含めた樹林を作る。希望の丘は津波対策だけではなく、防災意識を後世に伝えることや、市民が憩える公園としての役割もある。がれき撤去にめどが付いたことから、今年度中に整備計画を作成し、来年度にも着工する。

 また、福島県南相馬市の計画では、市民が海に親しむ一方で異変にも気付くよう工夫を凝らす。海岸側に整備するコンクリート防波堤の内陸側に、がれきを活用してそれより高く盛り土した森を公園として整備する。林帯幅は200メートル程度を考えており、昨年末の復興計画に盛り込んだ。9月にまとめる整備計画で具体化させる。

 森の防波堤にいち早く反応したのは、南海トラフの巨大地震津波を警戒する中部地方の企業だ。内閣府の検討会の発表で最大20・5メートルの津波が予想される愛知県豊橋市の三河湾埋立地に工場を持つ自動車部品メーカーの三五(本社・同県みよし市)は4月22日、実験植樹をした。宮脇さんが指導し、東海地区に工場を持つ複数の企業も参加した。

 工場の南端に全長300メートル、高さ1・2メートルの土塁を整備。中に工場内のコンクリート片を中心に部品運搬用の木枠など約30トンを入れ、土盛りした上に常緑広葉樹5760本を総勢400人で植えた。環境省は実験として木質材を入れるのは認めており、同社では毎月、メタンガス濃度や陥没の状況などを調べる。

 また、13・7メートルの津波が予想される静岡県掛川市でも、海岸近くの特別養護老人ホームで施設内のコンクリート塊を活用し、地元NPOが森の防波堤をつくる予定だ。

(毎日新聞 2012.05.05)