東京新聞の社説に宮城県気仙沼市で計画されているコンクリート製巨大防潮堤に対する問題提起が掲載されました。
人工構造物に頼らない「減災」の視点に基づいた防災計画の在り方が求められます。
広葉樹を活かした「いのちを守る森の防潮堤」計画こそ、この問題にひとつの解決策を示すものではないでしょうか。
記事を転載します。
東日本大震災で被災した三陸の海岸に巨大な防潮堤をつくる計画がある。防災に必要とされるが、環境面の視点も必要だ。森と海をつなぐ生態系に配慮して、沿岸漁業が栄える豊かな海としたい。
宮城県気仙沼市にある舞根(もうね)湾の奥部は、かつては湿地や干潟だったが、埋め立てられて、農地などになっていた。大震災で地盤沈下したことにより、再び干潟が復活した。ボランティア研究チームの生物環境調査では、ここでアサリ稚貝が大量に見つかった。
そこに高さ九・九メートルの防潮堤をつくる計画が持ち上がった。もともと防潮堤はなかった場所だ。舞根地区は、カキ養殖を営む畠山重篤さんらが「森は海の恋人」のキャッチフレーズで、森を育てていることで知られている。
湾に注ぐ川の水質汚濁の原因は、源流の山々の荒廃にあると考えて、一九八九年からブナやミズナラ、トチなどの植林を始めた運動である。実際に森の腐葉土をくぐった水は、沿岸のプランクトンや海藻の生育に重要な役目を果たしていて、やがて豊かな海が蘇(よみがえ)っていった。
そこにコンクリートの高い壁をつくってしまったら…。森や川、海、生物の生態系的なつながりが断絶されてしまう恐れがある。同地区の住民たちは、防潮堤の計画を撤廃するよう求め、要望書を同市に提出した。
干潟が戻ったことで、海は海藻の育つ藻場になる。そこに魚が産卵し、稚魚があふれる。沿岸部で育ったカタクチイワシは、沖合で一本釣りされるカツオのエサになる。沿岸漁業と沖合漁業は、密接に関わってもいるのだ。
「防潮堤ができれば、海が見えなくなって、海の状況判断ができない。潮の流れも変わる」という声も聞かれる。舞根地区を含めた、気仙沼市内の十一地区では、八月から「防潮堤を勉強する会」をつくった。
宮城県では沿岸を二十二ブロックに区切り、高さ約三メートルから約十二メートルの防潮堤を建設するという。近代技術のもろさを見せつけた大津波だったが、それでも防災のために、巨大な壁が必要だという意見もあろう。一方で、舞根地区のように、防潮堤には頼らないという意見もある。
まず、各地域の意見に耳を傾けるべきではないか。基幹産業である漁業や養殖業を振興させるよう、環境との調和を図る防災の在り方を探ってほしい。
(東京新聞 2012.09.05)