~仙台市若林区荒浜 2012年2月3日~
震災から11ヶ月が経過しようという2月3日。宮城県仙台市若林区荒浜地区を訪れました。
ここには10mにもなる津波が押し寄せ、5kmも内陸にまで浸水したそうです。
多くの家屋が流失し、人命もたくさん失われました。
林帯幅が150m以上、場所によっては300m近くあったとされる海岸林は見る影もなく破壊されました。
江戸時代に仙台藩が飛砂、塩害を防ぐために長い歳月をかけ、地元住民と共に造成してきた海岸林の現在の姿を報告します。
まず目に飛び込むのは、津波によって押し倒されたり、折られたりしたクロマツです。
以前赤茶けていた葉は枯れ落ち、無残な枯れ枝の姿になっています。津波に耐え、倒れずに済んだ個体もその半数近くが葉が赤茶けています。
ただ、倒されたクロマツの中には根の一部が抜けなかったことが幸いしたためか、再生しつつある個体もいます。
枝先を起こし、空に向かって葉を広げています。
また、実生から天然更新したと思いわれる若木は津波を被った影響を感じさせず、青々としています。
この真冬に鮮やかな緑色の葉を付けている植物たちがいます。
もっとも多いのがマサキです。
津波によって倒されたものが頭をもたげ、新しい枝を伸ばし、力強く再生しています。
シャリンバイもいます。
ネズミモチも仲間同士固まって生えています。
シロダモやヒイラギといった将来樹高10m近くにまで成長する樹種もいます。
これまで頭上を覆っていたクロマツがいなくなり、変化した環境にいち早く適応しつつあります。
今は落葉しているため目立ちませんが落葉樹もいます。
ヤマザクラやケヤキです。
幹は押し倒されていますが、その後ひこ生えを生じたようです。
どっこい生きているのです。
針葉樹のクロマツは再生萌芽ができません。
根が生きていても地上部を奪われてしまうと死んでしまいます。
広葉樹の力強さを感じました。
イボタノキもこの2月ですがまだ葉を付けています。
これは津波で地上部が倒されたのですが、ひこ生えを伸ばしたのです。
それから葉を広げたので、まだ葉が若く、そのため落葉していないのだと思われます。
草本類では被災直後に海水の影響か黄色く変色していた笹が回復していました。
また、チガヤが一面覆い尽くしている場所もありました。
津波によって大きな撹乱を受けた海岸林ですが、植物はその撹乱の元でそれぞれに対応し、生き抜こうと戦っているようです。
さて、逢いたくないものもいました。
津波に倒されたクロマツに次いで多くの個体を目にします。
今は落葉しているため、一見目立ちませんが、触れると飛び上がるほど痛いトゲをもっています。
要注意外来生物にも指定されているハリエンジュこと、ニセアカシアです。
砂防林に使用される等環境適応力が高く、成長の早いニセアカシアにとって、
クロマツ林が大きく破壊された今は、勢力拡大のための千載一遇のチャンスといえるでしょう。
ニセアカシアにはアレロパシー(※)があり、他の植物の成長を阻害するともいわれます。
ニセアカシアの繁茂は、それ以外の海岸林構成樹種にとっては大きな脅威です。
今回の被災海岸林の状況をまとめると、
被害を受けたクロマツに代わり、マサキやシャリンバイ、シロダモといった広葉樹が成長を始めていました。
良好に推移すれば、生残しているクロマツと広葉樹が混交林を形成する可能性もあります。
しかし、明るく他に強い競争相手のいなくなった被災海岸林の立地は、
セイタカアワダチソウやハリエンジュなどの外来植物にとって、好適な環境でもあります。
今何か手を打たなければ、これまで防風・防潮機能を持っていた海岸の樹林は、
ニセアカシアやセイタカワダチソウがはびこる藪のような植生になってしまう危険性をはらんでいました。
(文責:高野義智)
※アレロパシー
ある植物が他の植物の生長を抑える物質を放出したり、あるいは動物や微生物を防いだり、あるいは引き寄せたりする効果の総称
コンテンツ - 森の防潮堤計画